ー嵐ー


ところ変って、近くの自然公園。

春の暖かい空気はこの自然公園の木々を生き生きと見せている
そんな木々の木漏れ日落ちる、小さな広場で一人の男が木々を見上げて立っている

空手のいわゆる上段の構えで周囲に目を配っている、
みれば男の体中にはなにかに引っかかれたような傷が・・・

ザシッ!
目の前の公孫樹の木になにかがいた。
光る瞳、するどい牙、木に食いこむ爪、猫科の猛獣を思わせる特徴を持ちながら
なおそれは人間であり女であった、強靭なバネをもつ筋肉質の体には乳房があり皮製の衣服も
身にまとっていたからだ。

(な、なんなんだこれは・・・人間の女・・だとしたらこの動きは・・・20年空手をやってきて
 これほどまでの相手に出くわすとは・・・)

空手の有段者で師範の資格ももつ中条は、この正体のわからない相手にすでに1時間近く
戦い費やしていた。
最初はヒョウかなにかだと思った、それでもあてれば倒せる自信があった。
だが相手はガードし受身を取っていた、それどころか今まで見たことのない格闘技の形を
有していた。
空手家として正体を見極めたかった、それゆえに今まで戦ったのだ・・・が。

(だめだ、スピード゙に目が追いついいても動きのパターンが今まで見てきた格闘技とまったく違う
 次の一撃をよけきれなければ・・・・)

獣の瞳に攻撃の色が宿る。

「!!」その瞬間

「グルー、もういい」
いま男に襲いかかろうとしたせつな、その獣の動きが止まった。

声をかけたのは背の低いシスターの格好をした女だった、男はゆっくり下がりつつ
その女と目をあわせた。

褐色の肌、青い瞳・・・だが極端に若い、まるで少女のような顔つきだ、がその
落ち着いた瞳は大人のそれであった。

「グルーお遊びは終わりだ、いくよ」
「ルル・・・」
グルーと呼ばれたその獣人は素直に言う事を聞き少女の傍らへと移動する
2mはあるグルーが横に来ると女の小ささが際立った。

二人はまったく何事もなかったように、その場を立ち去ろうとした。
中条はこん身の勇気を振り絞って一言だけいった。

「あ・・あのワザは?」

「ベアルド・・・」
シスターの格好をした女は振り向きもせずそういって視界から消えていった。


一方その頃・・・

そんな二人が着々と近づいている事も知らず、歌音を追ってケイが走っていた。

「ま、まって歌音ちゃん!」

「あなたにちゃん付けされて呼ばれるいわれはないわ!」

「にゅうぅぅ・・・じゃあ歌音サマ・・」

「余計イヤ」

「そ、そんなに私のこと嫌い?」

「き、嫌いとかじゃなくて!順序があるでしょ?いろいろと〜っ」

歌音はとうとう立ち止まるとケイのほうをじっと見つめた。
ケイはしばらくその視線を受けていたが、急に赤くなると視線をそらした。

「歌音・・・ちゃ・・うん、あなたのベアルドは信じられないくらい大きいの・・・
 私、こんな気持ちははじめて・・・その力にひかれているのかも・・」

「ベアルド? なんなの?教室でもそんな事を・・・・私が?持ってる?」

ケイは言ったものの返答に困ってうつむいてしまった。
「とにかく、歌音・・・ちゃん・・・いっしょに暮らすんだし、私も気をつけるから
 ・・・お友達になりましょうよ。」

「・・・・そう言う・・・事なら・・・」

と、そのとき!ケイの表情が一変して緊張が走った。
「こ、この感じ!まさか!」

刹那! 右手の屋根の上から大きな影が恐ろしいスピードで歌音に飛びかかった!

が、ケイはそれよりも一瞬早く、歌音を突き飛ばす事に成功した。

「きゃぁっ!」 「くっ」
歌音は起きあがりながらその大きな影を確認していた・・・それは大きな獣のような人間
・・見たこともない、なにか漫画のような感覚のものに感じていた。

そして視界に飛びこむ、赤い雫・・・・。

 「ケイ!!」
歌音は思わず叫んでいた、自分を突き飛ばしたケイが獣の一撃を受けていたのだ
右肩から鮮やかな赤い血が零れアスファルトにぽたぽたと落ちている。

「うふふ、はじめて名前を呼んでくれたね・・・」

ケイは何事もないように笑顔を見せてそう言った。

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