ーひかりー


「るるるるる」
そのケモノのような人間・・・グルーは恐ろしい殺気を放ちながらそこにいた
普通の人間がその殺気を受ければ、まったく逃げる事のできない絶望感をその身に感じただろう。

「驚いたわね・・・ケイよりもベアルドが大きい人間が近くにいるなんて・・・」
グルーの影からシスターの扮装の小さな少女のような女が口を開いた、流れるような日本語である。

「おかげでグルーがそっちに攻撃しちゃったみたいね・・・でもケイにダメージがあるんだから結果OKね」

ケイはその言葉を聞きながら歌音をかばうように前にたちあがった。
「ミップ・・・やっぱりあなたが来たのね。」

「ククク・・・ケイ・・・あなたを倒せる日が来るなんて・・・しかもこの日本で・・・」

ミップと呼ばれたその少女は人形のようにニヤリと笑う。

「その傷ではアレは使えない・・・グルー・・・バグドで十分やれるわね?」
その言葉を聞くと同時にグルーが動いた。 その巨体にまるで羽根でも生えたように
軽々とコンクリートの塀に飛び乗ってまっすぐにケイへと襲いかかる。

黒い固まりのような腕が風のように連打されるがケイはそれを受け流して
後方へとさがり自分のポジションを確保する。

そう、場所は人家の路地である、左右はコンクリートなどの壁で囲まれ逃げる場所すら
確保できない。
少しでも広い場所でなければサイズの違いで力の差は明らかだ。

「歌音ちゃん走って!」
「な・・なによもうっ!」
歌音は状況をいち早く察して、すでにケイの後ろを走り出していた。
ケイが何らかの格闘技をマスターしているのはわかっていたし、そうやすやすと
倒されることはないだろうとも思えた。それならば自分は足手まといにならないように
しなければならないだろうと、瞬間に歌音は体が判断していた。

それを見ていたケイは<なんだ相性イイじゃない>などと不謹慎にも考えた。
と同時に裏拳がケイのガード越しにぶち当たる。

「くっ」 ガードしているのにケイは左の藪に吹っ飛ばされる。
だが幸いにもそこは、小さな公園になっていたので場所も確保でき
間合いもかなり楽になった。

ケイのガードした腕が薄い緑色の光に包まれる。
「あれが・・・ベアルド・・?」
歌音は漠然とそう思った、なぜそう思ったのか自分でもわからなかったが
ケイは受け流す時もガードする時もその力を使っているようだった。

ブルンッ!
ケイのからだがふるえた、一瞬全身がさっきと同じ緑の輝きに包まれる。
短すぎるスカートと制服は風もないのにひらひらと流れ、美しいプロポーションを
くっきりと映し出す。 褐色の肌、銀色の髪、そしてブルーの瞳が燃える。

ビクンッ とグルーが反応するがすぐに黄色い瞳の瞳孔が絞り込まれスゴイ力を
溜め始める。ビキビキと筋肉に血管が走り爆発しそうだ。

不思議な構えをケイは取り始める、歌音は今まで見たこともない構えだったが
その隙のない構えはなにかの完璧なダンスにも見えた。

不意にケイが動いた、なんの前触れもない動きだった。
それだけに隙がなかった。まるで一本の刃のようにケイの右手がグルーの眉間に
吸い寄せられる。
その拳があたる直前ケイは右足を軸に回し蹴りをはなつ。

右手はフェイントだったのだ、グルーの瞳は完全に拳を捕らえていた
低く沈み込むケイの体のスレスレをグルーの両手が空を切る。
そしてその右顔側にはケイのこん身の左足がぶち当たる!

ガガッッ!

グルーの巨体が嘘のように崩れ落ちる。

「やった?!」
我知らず歌音は嬉しそうにさけんでいた。

「・・・・」ケイは構えを解かない、それどころか先ほどより険しい表情に変わる。

「ベアルドが足りないようね・・それじゃあグルーは倒せないわよ・・ククッ」
倒れるかと思われたグルーの体は何事もなかったように持ちなおしていた
みしっ・・
その筋肉がさらなる力をためている。

ケイの体の輝きは見る間に衰え、もはや勝敗は見えているようだった・・。

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